「決算書が赤字なんですが、ビザの更新は大丈夫でしょうか」
この質問、本当によく受けます。
赤字決算を抱えた経営者の方にとって、経営管理ビザの更新は大きな不安のひとつです。
「赤字だから不許可になるんじゃないか」「1年更新しかもらえないんじゃないか」――そういった心配を抱えながら申請の準備をしている方も多いと思います。
結論から言うと、赤字だから必ず不許可になるわけではありません。
しかし赤字の状態で何も準備せずに申請するのは危険です。
大切なのは、赤字の「中身」と「説明」です。
この記事では、赤字決算でも更新が通るケースと通らないケースの違いを、具体的に解説していきます。
赤字だから不許可、は本当か?
経営管理ビザの更新審査において、入管が決算書を確認するのは事実です。
しかし、入管が見ているのは「今この瞬間の数字が黒字か赤字か」だけではありません。
入管が本当に確認したいのは、「この会社はこれからも事業を続けていけるのか」という事業継続性です。
今年の決算が赤字であっても、その理由が説明できる、改善の見通しがある、取引先や契約がある程度確保されているといった状況であれば、更新が認められるケースは十分あります。
逆に言えば、黒字決算であっても、事業の実態が薄い、社会保険に加入していない、雇用体制が整っていないといった問題があれば、審査は厳しくなります。
決算書の数字はあくまでも審査の材料のひとつに過ぎません。
赤字=即アウトという誤解が広がっている理由
「赤字だとビザが通らない」という誤解が広がっている背景には、審査が厳しくなってきたという現実があります。
以前に比べて審査が細かくなったことで、「赤字の会社は危ない」というイメージが一人歩きしてしまっている部分があります。
でも実際には、赤字だから不許可になったのではなく、赤字の説明ができなかったから、あるいは赤字に加えて他の問題も重なっていたから不許可になったというケースがほとんどです。
赤字そのものよりも、赤字をどう説明するか、どう対処しているかを示せるかどうかが審査の結果を左右しています。
そもそも入管は赤字をどう見ているのか
更新申請で提出する決算書は、入管の審査官が会社の財務状況を確認するための基本的な資料です。
では具体的に、決算書のどこが見られているのでしょうか。
まず確認されるのが**損益計算書(P/L)**です。売上高、売上原価、販管費、営業利益、最終的な当期純利益――この流れを見ることで、会社がどれだけ稼いで、どれだけ使って、最終的にいくら残ったかが把握できます。
次に確認されるのが**貸借対照表(B/S)**です。
資産と負債のバランスを見ることで、会社の財務的な安定性が確認できます。
特に純資産がマイナスになっている債務超過の状態は、審査官に強いマイナスの印象を与えます。
そしてキャッシュフローの状況も重要です。
利益が出ていなくても、手元に資金があって事業が回っているのか、それとも資金繰りが切迫しているのかを、預金残高や通帳の動きで確認されることがあります。
単年赤字と継続赤字では評価がまったく違う
赤字といっても、単年の赤字と複数年にわたる継続的な赤字では、審査官の見方がまったく異なります。
単年の赤字は、特定の事情による一時的なものとして説明しやすい状況です。
「この年はこういう理由で赤字になったが、前後の年は黒字を維持している」という流れが示せれば、審査官も「一時的な落ち込みだ」と判断しやすくなります。
一方、複数年にわたる継続赤字は、「この会社の事業は本当に継続できるのか」という疑念が強くなります。
継続赤字の場合は、より詳細な説明と、改善に向けた具体的な取り組みの説明が必要になります。
赤字の「中身」が審査の判断を左右する
赤字の審査において最も重要なのが、赤字の中身です。同じ赤字でも、その原因によって審査官の受け止め方はまったく違います。
たとえば、新しい設備を導入したための減価償却費の増加による赤字と、売上が激減して固定費が賄えなくなったことによる赤字では、事業の将来性という観点から見たときの意味がまったく異なります。
前者は「投資をしている会社」という積極的な印象を与えられますが、後者は「事業が縮小している会社」という印象になってしまいます。
赤字の中身を正確に把握して、それを適切に説明できるかどうかが、審査を通過するための鍵です。
赤字でも更新が通るケース
ケース① 設備投資・先行投資による赤字
事業を拡大するために新しい設備を購入した、新しいシステムを導入した、店舗を改装したといった先行投資によって赤字になっている場合は、審査において説明しやすいケースのひとつです。
こうした投資は、事業の将来性に向けた積極的な行動の証拠です。
「今は赤字でも、この投資によって今後の売上・利益の改善が見込まれる」という説明ができれば、審査官も事業継続性を前向きに評価してくれます。
準備すべき資料としては、投資の内容がわかる契約書や領収書、投資による効果の見込みを示した事業計画などが有効です。
ケース② 外部環境による一時的な落ち込み
コロナ禍の影響、急激な円安による仕入れコストの上昇、原材料費の高騰といった外部環境の変化による赤字は、経営者の努力ではどうにもならない部分があります。
こうした場合、まず大切なのは「外部環境の変化によるものだ」という事実を客観的なデータで示すことです。
業界全体の状況を示す統計データ、同業他社の動向、政府の発表資料などを活用して、「自社だけの問題ではなく、業界全体が影響を受けた」という説明ができると審査官の理解を得やすくなります。
そのうえで、「外部環境が落ち着いてきた現在、売上は回復傾向にある」という直近の状況を示せると、さらに説得力が増します。
ケース③ 売上は維持されているが経費増加による赤字
売上自体は前年と変わらない、あるいは増加しているにもかかわらず、人件費の上昇や家賃の増加、原材料費の高騰などによって経費が膨らんで赤字になっているケースです。
このケースは、「売上を稼ぐ力は維持されている」という点で、事業継続性の観点からは比較的説明しやすい状況です。
売上の推移と経費の内訳を丁寧に示して、「売上は問題ない、経費をどう管理するかが課題」という説明ができれば、審査官にも状況が伝わりやすくなります。
ケース④ 創業期・事業拡大期の赤字
会社を立ち上げてまもない時期や、事業を積極的に拡大している時期は、収益よりも先に費用がかかることが多く、赤字になりやすい状況です。
こうした時期の赤字は、ある意味で「成長の過程」として説明できます。
採用コスト、マーケティング費用、新規事業の立ち上げコスト――これらへの投資が先行しているために赤字になっているという説明は、事業の将来性を示すものとして有効です。
ただし、創業から何年も経過しているのに「まだ創業期だ」という説明は通用しません。
会社の設立からの経緯と、現在の事業フェーズを正確に説明することが大切です。
ケース⑤ グループ会社間の取引による影響
複数の会社を経営している場合、グループ会社間の取引や経費の配分によって、特定の会社の決算が赤字になることがあります。
こうしたケースでは、グループ全体の経営状況を示したうえで、「この会社単体では赤字だが、グループ全体としては健全な経営ができている」という説明が必要です。
グループ会社の関係性と取引の内容を整理した資料を用意しておくと、審査官が状況を理解しやすくなります。
赤字で更新が厳しくなるケース
ケース① 売上自体が継続的に減少している
最も審査が厳しくなるのが、売上が毎年継続的に落ち続けているケースです。
売上の減少が止まらないという状況は、「この会社の事業はこれからも続いていけるのか」という疑問に直結します。
しかも複数年にわたって続いているということは、一時的な問題ではなく構造的な問題がある可能性が高いと見られてしまいます。
こうした場合は、売上減少の原因分析と、それに対する具体的な対策を示すことが不可欠です。
「何もしていない」という状態が最も危険です。
ケース② 資金繰りが明らかに行き詰まっている
赤字が続いて手元資金が底をついてきている、借入れで運転資金を賄っている状態が続いているといったケースは、事業継続性の観点から非常に厳しい評価になります。
通帳の残高が極端に少ない、借入れが増え続けているといった状況は、決算書を見れば確認できます。
こうした状態での申請は、よほど説得力のある説明がない限り、審査を通過するのが難しくなります。
ケース③ 取引先・契約がほとんどない
赤字であることに加えて、取引先がほとんどいない、継続的な契約がないという状態は「事業が実際に動いていない」という印象を与えてしまいます。
売上がほとんどなく、取引の記録も薄いという状態では、「本当にこの会社は事業をしているのか」という根本的な疑問につながります。
ケース④ 赤字の説明が何もない
赤字であることよりも問題なのが、赤字の説明が何もない状態で申請してしまうことです。
決算書を提出して「赤字です」という事実だけが示されている状態では、審査官は判断のしようがありません。
なぜ赤字なのか、今後どうするつもりなのか――何も説明がなければ、審査官は最悪のケースを想定して判断せざるを得なくなります。
ケース⑤ 債務超過と赤字が重なっている
赤字が続いた結果として債務超過(負債が資産を上回っている状態)になっている場合は、審査がさらに厳しくなります。
債務超過は財務上の深刻なシグナルです。赤字単体よりも、債務超過と赤字が重なっている状態は「会社の存続そのものが危うい」という印象を与えてしまいます。
ただし、債務超過であっても更新が認められるケースはあります。
債務超過の状況での審査対策については、中小企業診断士の意見書の活用法を解説したこちらの記事でも詳しく触れていますので、あわせて参考にしてください。
赤字決算で審査を通過するために必要な準備
赤字決算で審査を通過するために、まず最初にやるべきことは「なぜ赤字になったのかを言語化すること」です。
自分では「こういう理由で赤字になった」とわかっていても、それを審査官に伝わる形で説明できなければ意味がありません。
赤字の原因を整理して、わかりやすい言葉で説明できる状態にしておくことが第一歩です。
税理士と一緒に決算書を読み解きながら、「この赤字はどこから来ているのか」を丁寧に分析することをおすすめします。
数字で裏付けた説明資料を用意する
赤字の説明は、言葉だけでなく数字で裏付けることが大切です。
売上の月次推移グラフ、費用の内訳表、前年比較の表――こうした数字を視覚的に示した資料があると、審査官が状況を理解しやすくなります。
「売上は落ちたが、直近の数ヶ月は回復傾向にある」という場合は、その回復の流れをグラフで示すことが有効です。
また、直近の試算表を添付することで、決算書よりも新しい財務状況を示せます。決算から時間が経っている場合は特に、直近の試算表で「現在の状況は改善している」ということを示すことが重要です。
事業継続性を示す取引先・契約書類を揃える
赤字決算があっても、事業が実際に動いている証拠を示せれば、事業継続性の評価は大きく変わります。
具体的には、取引先との継続的な契約書、発注書・請求書の履歴、新規の商談状況を示す資料などが有効です。
「財務的には厳しい状況だが、取引は継続している、新規の案件も動いている」という実態を示すことで、審査官に「この会社はまだ動いている」という印象を与えられます。
中小企業診断士の意見書・評価書を活用する
赤字や財務的に厳しい状況がある場合に、非常に有効なのが中小企業診断士の意見書・評価書です。
中小企業診断士は、会社の経営状況を客観的に分析・評価する専門家です。
「この会社がなぜ赤字になっているのか、そしてなぜこれからも事業を続けていけるのか」を専門家の視点から書面にまとめてもらえます。
自分で説明するよりも、専門家のお墨付きがある形で提出できるのは大きな強みです。
審査官も「専門家が分析して、事業継続性があると判断した会社」という前提で審査を進められるため、説得力が格段に上がります。
特に、継続赤字や債務超過の状況がある場合は、中小企業診断士の意見書を早めに準備することを強くおすすめします。
理由書でネガティブ要素を先手で説明する
赤字という事実は、決算書を見れば審査官にもわかります。
それを理由書で触れずにいると、「なぜ説明がないのか」という疑念が生まれます。
大切なのは、ネガティブな要素を隠さずに先手で説明することです。
「こういう理由で赤字になった、現在はこう対処している、今後はこうなる見込みだ」という流れで説明することで、審査官に誠実な印象を与えられます。
問題を隠すよりも、正直に説明して対処していることを示す方が、審査官の印象は必ず良くなります。
赤字決算と社会保険・雇用体制の関係
赤字でも社会保険・税金の納付は必須
赤字だからといって、社会保険料や税金の支払いを後回しにしてはいけません。
経営が苦しい状況でも、社会保険料と税金の納付は義務です。赤字に加えて社会保険の滞納や税金の未納がある状態は、審査において非常に厳しい評価につながります。
資金繰りが厳しい場合は、年金事務所や税務署に早めに相談して、分割納付の交渉をすることをおすすめします。滞納を放置するよりも、誠実に相談して支払い計画を立てる方が、審査においても印象が良くなります。
こちらの記事では社会保険の未加入や滞納が経営管理ビザ更新に与える影響をまとめました。
→「管理ビザと社会保険の関係|未加入・滞納が更新審査に与える影響と是正手順」
雇用を維持していることが継続性の証明になる
赤字の状況でも、従業員の雇用を維持しているということは、事業継続性の観点から非常に重要なシグナルです。
「経営が苦しくても従業員を守っている」という事実は、「この経営者は本気で事業を続けようとしている」という印象を与えます。
逆に、赤字を理由に従業員を全員解雇してしまうと、雇用要件を満たせなくなるだけでなく、「事業の継続をあきらめた」という印象にもなりかねません。
2025年10月の法改正以降、常勤職員の雇用は要件として明確化されています。
経営が苦しい時期でも、雇用の維持は最優先事項のひとつとして考えておくことが大切です。
財務以外の実態が審査を左右することがある
赤字決算があっても、財務以外の実態がしっかりしている会社は審査で評価されます。
社会保険への適正な加入、雇用体制の整備、事務所の実態、ホームページや会社案内の整備、取引記録の蓄積――こうした財務以外の要素が「この会社は本当に経営をしている」という証拠になります。
赤字という数字だけを見て判断するのではなく、会社全体の実態を総合的に評価されるのが今の審査です。
財務が厳しい時期だからこそ、財務以外の実態をしっかり整えておくことが重要です。
経営管理ビザの更新に関して、全体像を知りたい方はまとめたこちらの記事もあわせて参考にしてみてください。
→「経営管理ビザの更新は『書類』だけでは通らない時代へ――社会保険・雇用体制・事業継続性の整え方」
赤字が続く場合に専門家と連携すべき理由
税理士・社会保険労務士・中小企業診断士・行政書士の役割分担
赤字が続いている状況での更新申請は、一人で抱え込まずに専門家チームと連携して進めることを強くおすすめします。
税理士は、決算書や試算表の内容を整理して、赤字の原因分析と説明資料の作成をサポートしてくれます。財務面からの説明を作るうえで欠かせない存在です。
中小企業診断士は、事業継続性の評価書・意見書を作成してくれます。財務数字だけでは伝わりにくい事業の将来性を、専門家の視点から客観的に示してもらえます。赤字や債務超過の状況では特に、この意見書が審査の結果を大きく左右することがあります。
社会保険労務士は、社会保険の適正な加入・運用と雇用体制の整備をサポートします。赤字の状況でも、社会保険と雇用の面がきちんと整っていることを示すことで、「法律を守って経営している会社」という印象を維持できます。
行政書士は、これらの情報を整理して理由書と申請書類を作成します。赤字の説明を含めた理由書を戦略的に組み立てるのが行政書士の役割です。
この四者が連携することで、財務・事業継続性・労務・申請書類のすべての面から審査に対応できる体制が整います。
専門家の関与が理由書の信頼性を高める
理由書に「税理士が分析した結果、赤字の原因は○○であり、中小企業診断士の評価では事業継続性に問題はないと判断されています」という形で専門家の関与を示せると、審査官への説得力が格段に上がります。
経営者本人の説明だけよりも、複数の専門家が関与したうえでの説明は、客観性と信頼性が高まります。
「この会社はきちんとした専門家のサポートを受けながら経営している」という印象そのものが、審査においてプラスに働きます。
早めに相談することで選択肢が広がる
赤字の状況での更新申請を考えている方に、一番お伝えしたいことがあります。
それは、早めに相談することで選択肢が広がるということです。
申請の直前に相談を受けると、できることが限られてしまうことがあります。
しかし、申請の半年前・1年前から動き始めると、社会保険の是正手続きをする時間もある、直近の試算表で改善傾向を示す時間もある、中小企業診断士の意見書を丁寧に準備する時間もある――選択肢が広がります。
「赤字だから相談しにくい」と思わないでください。
赤字の状況だからこそ、早めに専門家に相談して一緒に対策を考えることが大切です。
まとめ――赤字は説明できれば怖くない
審査で大切なのは数字よりも「説明力」
この記事を通じて一番お伝えしたかったのは、赤字は説明できれば怖くないということです。
入管が見ているのは、赤字か黒字かという結果だけではありません。
なぜそうなったのか、今どういう状況なのか、これからどうするつもりなのか――この3つを説明できるかどうかが、審査の結果を左右します。
赤字の事実を隠すのではなく、正直に、でも前向きに説明する。
その姿勢が審査官に伝わったとき、赤字決算でも更新が通る道が開けてきます。
日常の経営管理がそのまま審査の結果になる
赤字決算への対応も含めて、経営管理ビザの更新審査で大切なのは「申請のときに頑張ること」ではなく、「日常の経営をきちんと管理しておくこと」です。
月次試算表を毎月作成している、社会保険にきちんと加入している、雇用契約書が整備されている、取引記録が残っている――こうした日常の積み重ねが、赤字という状況があっても「この会社はきちんと経営されている」という評価につながります。
本記事が、赤字決算を抱えながらも経営管理ビザの更新を目指している経営者の方の、少しでも力になれれば嬉しいです。一人で抱え込まずに、早めに専門家に相談してみてください。
